別れ話は終わった。
もう話す事はなかった。
真美はハンドルをトンと叩いた。
「ごめん、そういう訳だから…」
助手席に座っている亮は、じっと俯いたままだ。
唇がかすかに動いて、何かを繰り返しつぶやいているように見える。
「…送ってくね」
と、真美。
「ちょっと…、ちょっと待って…」
亮がボソリとつぶやいた。
「ちょっと、ションベン…させて」
そう言って、亮は車を降りると、すぐそばの電信柱の陰に走って行った。
しばらくして帰って来た亮は、ポリポリと首の辺りを掻きながら
「別れ…なくちゃ駄目なのか?」
と、聞いてきた。
「…うん、もうやってけない…」
「…イヤだ」
「もう私、決めた事だから」
「別れるくらいなら、俺、死ぬ」
「…ごめん。どうしても無理」
「俺、死んでもいいのか?」
「…ごめん」
「俺、死んでもいいのか?」
真美は無言でアクセルを踏み込んだ。
その途端、ビシッという音がして、ガクン、と車が揺れた。
助手席に居た亮の首が、
ぼとり。
と落ち、膝の上から足元へと転がった。
音を立てて血しぶきが上がる。
電信柱からピアノ線が伸びて、肉片のこびり付いた輪が地面に落ちていた。 |