痴漢

ドアホンが鳴った。

ベッドで寝ながら本を読んでいた小百合は、立ち上がって出入り口へ近づいた。
女一人暮らしの癖で、まずドアスコープを覗く。

そこには警官が一人立っていた。
「あの…なんでしょうか?」
「近くの派出所の者ですが、近くで痴漢が出たもので」
「はあ」
「ドア、開けてもらえないでしょうか?」

小百合はドアチェーンをしたまま、ドアを少し開けた。
ガン!
と、ドアを引く音がする。
ドアの隙間から警官が覗き込んでくる。
「あの、ドアチェーンをはずしてもらえませんか?」
「ど、どうしてですか?」
「…もしかして、誰か他にいらっしゃるんですか?」
「いえ、いません」
「誰かに脅されているということは?」
「いえ、大丈夫です」
「そうですか。本当に大丈夫なんですね?」
「大丈夫です」
「分かりました。とりあえず、近辺を巡回していますので、何かありましたら、申し出てください」
「はい、ありがとうございます」

 痴漢…
  小百合はちょっと体を震わせて、もう一度ベッドの上に横たわった。
  雑誌の続きを読む。

ドアホンが鳴った。
  さっきの警官がまた?
ドアスコープを覗くと、先ほどとは別の警官が居た。
「すみません。ドアを開けていただけますか?」
  小百合は、またドアチェーンをしたまま、わずかにドアを開けた。
ガン!
  と、ドアを強く引く音がする。
  ドアの隙間から、警官が覗き込んでくる。
「ドアチェーンは?大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。さきほどのお巡りさんにも言いました」
「さきほどのお巡りさん?」
「ええ、さっき来た別の警察の方…」
「この付近は私一人が廻っているはずですが…」
「え、だって…」
「もしかして、この男じゃなかったですか?」

隙間から覗かせる写真には、さきほどの警官が写っていた。

「そ、そうです。この男でした!」
「ドアを開けてください。この部屋を重点に巡回させてもらいます」
「は、はい」
ドアを開けようとした。
その瞬間!

 ドアの隙間の警官の口が、にたりと笑った。のが見えた。

危ない!
  小百合はとっさの本能で、ドアを閉めて、ロックした。
「どうしたんですか?早く、ドアを開けてください」
  警官の声がする。
「明日の朝まで。朝までドアは開けません!」

 すると。
  ガン!
  ドアを揺るがす音がした。
  ガン!ガン!ガン!
  ガガガガガガガガガガン!

「開けろ、コラ!、ドブス!」
  警官の声が大きく響く。
「どブス、開けろよ! お前なんかどうせ何人にもやらせてるんだろ」
「俺にもやらせろよ、こら、開けろ!」
「こんなドアなんかなぁ、一発でぶち破れるんだぞ」
「殺してやるからな、殺してやるからな、殺してやるからな、殺してやるからな」
「死にたくなかったら、ドアを開けろ、売女!」
「死なせるからな、開けなかったら死なせるからな!」
「ぐちぐちにぶち込んで、血反吐はかせてやる」
「どぼどぼ血をふかせてやる」

小百合は、恐怖の中でドアスコープを覗いた。
  最初に来た警官と、次に来た警官の二人が一緒にドアを蹴っていた。

 

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