テトリス

テトリスのようだ。と彼は言う。

 その港に届けられるコンテナの数は、一日に500を下らない。
  そのどれもが、ちゃんとした受け取り手がいるとは限らない。
  受け取り手の居ない、宛先不明のコンテナは、そのまま埠頭の片隅に山積みにされる事となる。

 受け取り手が現れれば、保管代金と引き替えにコンテナが運び出されていく。

 たまたま運び出されたコンテナが、山の真ん中ほどで、そこへまた新しく受取人不明のコンテナが来れば、その空いた穴へスッポリと収める事になる。
  クレーンの操縦士の腕の見せ所であり、山城操縦士が「テトリスのようだ」と言うのはそういう時だった。

 精確に揺れを止め、音も立てずにスッポリとコンテナが収まった時には、得も言われぬ快感があると言う。

 ある日、いつものように受け取り手の居ないコンテナが届けられた。
  そして、いつものように山城操縦士の手によって、音も立てずにスッポリとコンテナの山の真ん中に収められた。

  それが、3ヶ月前の夏だった。
  季節は秋から冬になろうとしており、コンテナの受け取り手は現れずに、ずっとコンテナの山の中に放置されていた。

 保管期限が切れると、コンテナは港湾局の役人の前で開けられる事になっている。
  受け取り手の無いコンテナの中身は、潰れた貿易会社の輸入品である事がほとんどだった。

 そのコンテナは、再び山城操縦士の手によって、コンテナの間から抜き取られ、役人たちの前に降ろされた。

そして、コンテナの扉が開かれた。

 途端に、茶色いドロリとした液体がコンテナから溢れ出し、役人たちの足下を覆った。
  そして、あまりの腐敗臭に、その場に居た全員が激しく嘔吐していた。

 それは100人を越える人間の死体だった。

  難民たちが、日本への密入国のためにコンテナに潜んでいたのだ。
  そして、隙を見てコンテナから脱出するはずが、山城操縦士の見事なクレーン捌きによって、扉を開ける事も出来ず、コンテナの中で次々と死亡し、腐敗していったのだった。

 

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