高木有人(たかぎゆうと)くんが笑顔を見せたのは、何カ月ぶりだろうか…
確か、8カ月前にお母さんが失踪してから、ほとんど笑顔を見せなくなっていたのだ。 小学一年生では仕方ないだろう。 その有人くんが久しぶりに笑顔で、理科の授業に参加している。
担任の金井由里は、朝顔の種を一人3粒ずつクラス全員に渡していた。 「今渡したのは、種です。これを土に埋めて、しばらくすると双葉が出来て、それから茎が伸びて、花を咲かせます。これからの夏休みには毎日、日記をつけて、夏休みが終わる頃には先生に見せてもらいます。いいですか?」 「はーい!」 有人くんが元気よく手を挙げた。
思わず有人くんに歩み寄って、由里は話しかけた。 「朝顔好き?」 「…だから、お父さん」 「有人くん?」 はっと我に返った有人くんは、満面の笑顔を由里に見せた。 「お母さんが帰ってくる! お庭からお母さんが帰ってくる!」
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