「え、なにコイツ」
「これが、悪魔?」
清美と翔子は、深夜の体育館で呆然としていた。
二人の前の床には、チョークでかかれた魔法陣があり、正確に配置された蝋燭が13本ならんでいた。
すべて本に書かれた通り、間違いなく悪魔召喚の儀式は行ったはずだった。
バイト先の古本屋で手に入れた、気味の悪い革張りの本。表紙には日本語で「魔界大全」。
著者は、「STクラウン」と書かれていた。
いかにも、ソレっぽい本だった。
なのに、今、魔法陣の中に立っているのは、どっからどう見ても人間だった。
それも、小汚い服を着たホームレス。
おどおどして辺りを見回したり、二人の女子高生を見たりしている。
「どっかから入って来た?」
「うーん、ドアには全部カギをかけたはずなんだけどな」
清美は苛立たしげに、ホームレスに声をかけた。
「ちょっと、アンタ」
その声に、ビクンと体を震わせるホームレス。
怯えた目で、清美を見上げている。
「アンタ、悪魔?」
ホームレスは、キョトンとした顔で清美を見つめている。
「ちょっと、聞いてんだけど」
興味をなくしたように、辺りを見回しているホームレス。
「アンタねえ、こっち見なさいよ」
「ちょ、ちょっと、清美、イライラしすぎだよ」
「なんか、コイツ見てるとイライラしてくんだよね」
「それより、さっさと魔法陣から出てってもらって、もう一回やってみようよ」
「そだね。魔法陣書くのに3時間もかかってんだから、これじゃ終われないよね」
「ねえ、ちょっとアンタ、悪いけど、ここから出ていってくんない?」
まるで清美の声が聞こえないかのように、キョロキョロするホームレス。
「聞いてないよ、アイツ」
「しょうがない、線踏まないようにして、アイツ引っ張りだそ」
二人の女子高生は、つま先立ちで魔法陣の中に入って、ホームレスの肩口を掴んだ。
ねっとりと湿った布の触感。
「きたね」
「ちょっと、さっさと出てよ、ほら」
「あ、こいつコケやがった」
「やめてよ、この魔法陣書くのに3時間かかってんのよ。消えたじゃないのよ」
転んだホームレスを、清美が蹴り上げた。
ギャッと蛙のような悲鳴があがる。
「ギャ、だって。あはは」
「まじキモイね」
「翔子も蹴ってみ。ちょっと気分いいよ、男の人蹴るのって」
「うわ、清美女王様?」
「あはは、ほら、またギャだって。」
「ホントだ。ちょっと気分いいかも」
「泣き出したよ、コイツ。なんか、ムカつく」
「顔蹴ってみよ」
「丸くなってやんの」
「踏んだら、どうなるかな?」
「目に入れてみようよ」
「汚いな、こいつの血」
「くそ、汚いんだよ、チビりやがってよ!」
「なにこれ、骨?」
「ピクピクしてやんの」
「骨って、案外簡単に折れるんだねえ」
「ビクンだって」
「動けよ、もっと」
「もっと、踏んでやるよ」
「もっと泣けよ」
「もう声でないの?もっと悲鳴出しなよ」
「もっと」
「もっと」
翌朝、体育館の扉が開いた。
そして、女子高生の姿をした二匹の悪魔が、この世に解き放たれた。
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