ストーカー

『ねえ、まだ生きてるの?』

 また、あの女の声だ。

『早く死になよ、ねえ』
 
  沙織はすぐに携帯電話を切った。
  また携帯が鳴り始める。

『お前、勝手に切るなよ、ボケェ!殺すぞ』
  沙織は泣きたい気分で答えた。
「もう、お願い!私が何をしたって言うの? あなたは誰なの?」

『ねえ、早く死ねよ。なんで生きてんの?』
「お願いだから・・・」
『お前、今日は美容室行ったんだろ。カミソリで首切ってもらえば良かったのに』

 沙織は携帯を切ると、すぐに電源をオフにした。

 その女からの電話は、ここ2ヶ月ほど毎日のように続いていた。
  何者なのか?
  何を目的にしているのか?
  向こうの事は何も分からない。

 しかし、向こうはこちらの事をよく知っているようで、その日の沙織の行動を言ってみせる。
『今日は大学に行かなかったな』
『病院になんか行くなよ、死ねばいいじゃん』
『今日は一日外に出なかったな。でも逃がさねーからな』

 電話番号も3回換えたが、まるで隣で見ていたかのように、すぐに新しい電話番号にかかってくるのだ。

 沙織はもう一度携帯を見つめて、意を決したかのように電源をオンにした。
  そして、素早く一つの番号にかけた。

『もしもし?』
「あ、雄介?あの、今から会えない?」
『沙織か、どうした?』
「また、あの嫌な電話があって・・・美容室に行ったことも知ってて、怖いの、一人でいるのが」
『・・・そっか。よし、今からそっち行くわ』
「ううん、この部屋に居たくないの。そっち行っていい?」
『ああ、いいよ。それじゃ、待ってるから。気をつけてな』
「うん、すぐ行くから」

 沙織は携帯を切ると、すぐに部屋を飛び出して、駐車場に留めておいた車に乗り込んだ。

 ついついアクセルに乗せた足に力が入る。

 交差点を4つ抜けたところで、携帯が鳴った。
  車を走らせたまま、ポケットから取り出す。

「雄介?」
『メス豚が! そのまま車ごと壁に突っ込んだら?』
 
  あの女だった。
  もう、車に乗っている事も知られている。

『ほら、ハンドルを切って、そこのレストランにでも突っ込めよ、ほら』

 沙織は視線を右に走らせると、確かにレストランがある。
「ど、どこにいるの?」
『そんなことは良いから、死ねって言ってんのよ!』
「もうやめて!!」
  沙織が叫んだ。

 その時、車は交差点に差し掛かっていた。
  信号は
  ブレーキ!!
  急ブレーキの沙織の車に、後続のトラックが突っ込んだ!!!
  沙織の車の後部トランクが、紙くずのようにグシャッと潰れる。

と同時に、携帯から
『ぐえええええっ!!』
  と押しつぶされるような悲鳴が聞こえた。
 

 

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