親知らず

あるグラビアアイドルKさんの話。

 写真集発売イベントの握手会で、Kさんは戦慄と共に、記憶が甦っていた。

 ほんの2日前の記憶。
  彼女はようやく取れた休みに、歯科医へ行っていた。
  そこで、親知らずを抜くことになり、歯科助手が麻酔注射を打った。
「麻酔が効くまで、しばらくお待ちください」
  5分ほど待っていると、歯科医が現れた。
  淡いブルーの白衣を来て、同系色のマスクをしている。
「えーと、右下の親知らずでしたね?」
「はい」

  医師はすぐに器具を取り上げると、Kさんの口に突っ込み、強く引いた。
  ゴリッという嫌な音と共に、親知らずが抜けた。
「じゃ、後処理をしますので、そのまま待っててください」
「あ、はい」

  診察台に座ったまま待っていると、すぐに別の歯科医が現れた。
「お待たせしました。口を開けてください」
「はい」
「あれ? 右下の親知らずでしたよね?」
「はぁ、そおれふけど」
「抜いた跡がありますね」

  歯科医は不思議そうに、Kさんの口から器具を抜いた。
「え、ええ、さきほど別の先生に抜いていただきましたけど」
「この病院には、医師は私一人ですけど?」

 Kさんはじっと見つめていた。
  つい先程握手をしたファンの男の目。
  あの目は、歯科医で見た偽医者のマスクの上の目にそっくりだった。
 

  その男は、口を動かしてカチカチと、飴でも舐めているような音を立てて、ニヤニヤ笑いながら人混みに消えて行った。

 

 

 

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