千佳がトイレを済ませて、ユニットバスから出た途端に、ドアホンが鳴った。 部屋に居るときであれば、インターホンを取るところだが、玄関はすぐ左手にあった。
インターホンを取る代わりに、ドアスコープから覗くと、見覚えのある宅配員が立っていた。 30歳くらいの太った男性で、いつも着払いのお釣りのお札がねっとりと濡れている。 「汗っかきなものですいません」 と男が申し訳なさそうに言った事がある。
また、着払いの商品が届いたんだな。
財布を取りに部屋へ戻ろうとした時だった。 ドアスコープの向こうの男が口を開けた。その口から糸をひいて千円札が出てきた。
ドアスコープの前で、千佳は動けなくなっていた。
その後、30分以上もドアホンを鳴らし続けた男は、舌打ちをして帰って行った。
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