詩織と良美の間のテーブルには、すでに鍋がグツグツと煮え立っている。
ちょうど野菜にも火が通り、しんなりなって来たところを見ると、空腹感が否応なしに増していく。
「ちょっと、和美、マジ遅いんですけど」
良美が時計を見ながら文句を垂れる。
AM0:09
この時間に空いてる酒屋といえば、1キロほど離れた所にあるコンビニのはずだ。行って帰って10分ちょっと。
「なんか、おつまみとかも買ってんじゃないの」
と詩織がフォローを入れる。
その途端だった。
ドアベルが鳴った。
「なに、ベル鳴らしてんの。詩織、鍵かけた?」
「あ、そうかも。癖になってるから」
「ありゃ、和美怒ってるかもよ」
ドアベルが何度も何度も鳴らされる。
「怒ってるね」
詩織が肩をすくめて見せ、ドアを開けに走ろうとした時、突然、詩織の携帯電話が鳴った。
「あっと、良美、誰からか見ておいて」
詩織はドアに駆け寄り、良美がベッドの上の携帯電話を開ける。
「ちょっと待って! 詩織!」
「え、なに?」
もう、玄関ドアの前まで来ていた詩織が振り返る。
「電話……、和美から…」
「和美って…」
ゆっくりと、ドアの方に向き直る詩織。
「なんで、わざわざドアの向こうから電話なんて…」
部屋の空気がひんやりと温度を下げた。
良美が鳴りっぱなしの携帯電話を、まるで恐ろしいモノでも触るように詩織に渡す。
詩織はドアに近寄り、ドアスコープを覗こうとしながら右手で携帯の通話ボタンを押す。ゆっくりと、詩織の影がドアを上っていき、ドアスコープに達しようとしていた。
『覗いちゃダメ!!』
突然、携帯から和美の押し殺したような叫び声が聞こえた。
『ドアの前に変な女が居る。アイスピック持って、覗き穴を突き刺そうとしてる!』
警察が到着した時には、すでに女の姿はなく、いまだに捕まっていないという。 |