ネットカフェ

ネットカフェ「時遊空間」は、3つのフロアからなっている。
1Fは漫画喫茶になっており、2Fはネットカフェ、3Fはビリヤード場。
すべてが暗い間接照明のみになっており、知り合い同士ですら間近で出会わないかぎり判別できない暗さだった。
さらに、漫画喫茶やネットカフェは、胸くらいの低い間仕切りで小さなブースが出来ており、受付でもらった番号のブースに入り、着席するともう周りから隔絶された自分だけの空間になる。

ちょっと冷房が効きすぎかも…
まひろは上着の前を合わせ、体を丸めるようにしてパソコンに向かっていた。
どうも昨日から風邪気味で、咳が抑えられない。
ごほん、ごほん…
と咳をするのだが、喉の奥に詰まった痰がなかなか切れない。

まひろはブースから立ち上がると、フリードリンクのコーナーへ向かった。周りを見渡すと、蜂の巣のようにブースが並んでいるのが一望出来る。烏龍茶をグラスに注いで、再び、ブースに帰ろうとする。途中もが止まらず、下向き加減に自分のブースへと向かった。
と、誰かと肩がぶつかってしまった。
「あ、ご、ごめんなさい」
と謝ったのだが、相手はすたすたと歩き去ってしまった。
暗いネットカフェは、こういう時に相手の顔が見えにくく、後腐れがないのも利点だ。

まひろは咳き込みながら、ブースへ戻ると、その落ち着く空間へと沈み込んだ。
どうも、風邪のせいでDVDなどには専念できそうにないので、今日はネットを楽しもうと思っていた。

それも「2ちゃんねる」だ。
2ちゃんねるは日本最大の掲示板だが、独特の言い回しを使ったり、かなり過激な内容が多く、ちょっと敬遠していたのだが、ネットカフェからなら別人になって書き込めるんじゃないか…と思っていた。
ヤフーから「2」とだけ入力すると、2ちゃんねるがトップに出てくる。
そして、トップ絵をクリックすると、圧倒的な文字の世界が広がってきた。

まずは映画のスレッドを覗いてみたのだが、好きな映画がボロクソに貶されていて、気分が悪くなった。これから見ようと思う映画には、すでにネタバレの発言がされていて、とてもそれ以上読めなかった。
うーん、もう少し人の少ない板に移動した方がいいかな。
まひろは、相変わらず咳き込みながら、マウスをクリックした。

左のフレームをずっと下へ見ていくと、「まちBBS」があった。その中で、地元の「多摩」をクリック。身近な地名がどっと出てきて思わずホッとする。
さらに近所の地名をクリックすると、その街にある店の悪口などが書かれていた。確かに!と思えるモノも、言い過ぎだろ!と思えるモノもあったが、知っている地域だけに楽しく読めた。

他は……と大量のスレッドの海を見渡すと、「ネットカフェ」のスレッドがあった。
色々なネットカフェの店舗の悪口がたくさん書かれていた。

「漫画喫茶さつきはやる気ないとしか言えん。あんな店員置いておくと即潰れる」

「あの駅前のネットカフェはヤバい!やめとけ」

「店員ですがなにか?」

「ネットカフェ森々は、おっさん店員しかいないが居心地は良し」


地域のネットカフェスレッドだけに、書き込みがゆっくりしていて、落ち着いてレスが読めた。
すると、今まひろがいる「ネットカフェ時遊空間」の書き込みもあった。

「ネットカフェ時遊空間は最悪!ムカつく!!」

と書かれている。
まひろはムッとしていた。
まひろにはかなりお気に入りのネットカフェだ。どこが悪いというのだ。
思わず頭に血が上って、咳がひどくなる。
さらに読み進めると、

「氏ね時遊空間店員も客も氏ね!」

ひどい嫌われようだなぁ、と思いながら、書き込み時間を見ると10分ほど前に書き込まれたモノだった。

「横レス失礼、なにそんなに腹立ててんの?」

と書き込んで反応をみてみた。
すぐに反応があった。

「俺一年前から会員だけど会員カード忘れただけで入店拒否しやがた」

「そりゃ、しょーがないだろ」と誰か。

「私もそー思う」とまひろ。

「いや許さんぜったい許さんぜったいぜったいぜったい」

「どうせネット番長だろ」と誰か。

ナイフ持ってきてるこれでぶすぶす刺してやるぶすぶすすぶす」

「あーらら、言っちゃった。通報通報」と誰か。

まひろは、少し背筋が冷えていくのを感じた。
「持ってきてる」というのは、いまこの店にいるということじゃないのだろうか。いや、単に虚勢を張っているだけだろうとは思うけど……

「全員ぶちぶちぶちぶち殺してやる」


「犯罪者ハケーン」と
誰か。


「煽らない煽らない」とまひろ。

「ぜったいやる殺す刺し殺すくじり殺すぐっちぐちに殺してやる」


「誰から殺すつもり?客?店員?」


とちょっとの間があってから、レスが返って来た。
「さっき肩ぶつけた女咳うるさい隣りのブースの女今すぐやる殺すまくる」

まひろは思わず手を口に当てていた。
咳が出そう…
呼吸を止めて咳を押さえつけながら、ブースの上から頭が出ないようにしゃがみながら、ドアを開けた。ゆっくりブースを抜けると、静かに廊下を走った。
店員に何も言えず、そのまま代金を払って、逃げるようにネットカフェを飛び出した。
あれ以来、ネットカフェには行っていない

 

 

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