異臭

 
聖美は、雨の日の通勤電車が嫌いだった。

 空気がじっとりと湿っていて、長い髪から服からすべてがなんとなく濡れてしまう。
 そして、獣臭に近いような人間臭さが体に染み込む気がするのだ。
電車から降りると、ほっと溜息が漏れ、体のどこかしらから異臭がするような気がした。

 異臭は気のせいだと思っていた。
  その日までは。

ある雨の日の通勤電車。
  満員の電車の中で、聖美は窓の外を見て、早く駅に着く事を願っていた。
  と、電車がビルの影に入った。

 聖美はボンヤリと、窓に映る自分の姿を見た。

  そして、背後にいる男の顔も見えた。
  その男は口から黒い塊を吐き出していた。

 
  目の錯覚かと思った聖美は、目を凝らした。
  男の口から飛び出した黒い塊は、だらりと垂れて、聖美の頭に繋がっていた。

  男は聖美の髪の毛を頬張っていたのだ。

 聖美の視線に気づいた男は、素早く人混みの中に消えていった。
  聖美は悲鳴を飲み込んで、一歩も動けなかった。

 

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