いじめられっ子

 荒川涼子は、敏感にクラスの雰囲気を感じとっていた。
  どうやら、イジメが行われているようだ。

 涼子が初めて持ったクラスが1年2組で、そのまま進級した2年2組を受け持った。
  一年の頃は、まだ母親恋しさで泣く児童や、お漏らしをしてしまうような子も居たのだが、2年になるとめっきりそういう事もなくなった。
  その代わりにイジメが始まってしまったようなのだ。

 イジメられているのは、クラスでも小柄な女の子、吉沢ミチルちゃんだった。
  イジメと言っても、まだ小学校2年生なので暴力的な事にはなっていないが、誰もミチルちゃんを相手にしておらず、遊び時間もまるで居ない子のように扱われているようだった。
 
  給食の時間には、教諭同士の意見交換などがあるため、食事は職員室で取るのだが、早めに済ませて教室を覗きに行くと、やはりミチルちゃんだけが一人で食べている。
  しかも、パンやおかずを細かく千切っては食べているため、異常に食べるのが遅く、昼休みに遊びに行く児童たちを尻目に、まだ食べ続けている。
  少なくともわが校では、食べ物の好き嫌いは個性と認められているので、嫌な物は無理して食べる事はないのだが、それでも必死で食べ続けている。

 涼子は、教室にただ一人残って給食をちびちびと食べているミチルちゃんに声をかけた。
「ミチルちゃん」
  ミチルちゃんが顔を上げてニッコリと笑って見せる。上の前歯、乳歯が二本抜けているのがはっきり分かるような、くっきりとした笑顔だった。
「嫌いな物があったら、食べなくてもいいのよ」
  ミチルちゃんは、悲しそうな表情を見せると無言で左右に首を振った。
「お友達と遊んで来てもいいのよ」
  そう言うと、ミチルちゃんはさらに強く首を左右に振る。
「お友達、いないの?」
  ミチルちゃんは、寂しそうにコクンとうなずいた。
「みんなとお話してみたら、きっとお友達なんかすぐ出来るわよ。ミチルちゃん、最近、お勉強の時間でも全然手を挙げないし、先生、心配してたんだ」
  ミチルちゃんは黙ったまま、ぽろりと涙をこぼした。
「泣かなくていいのよ。先生、怒ってるんじゃないんだから」
  思わず、ミチルちゃんを抱きしめる涼子
  すると、ビクンミチルちゃんが体を強張らせた。
「ちぃ」
  という妙な悲鳴をあげる。

 涼子は、咄嗟にミチルちゃんの洋服の襟を下げてみた。
  そこには、痛々しい痣が刻みつけられていた。
ミチルちゃん、ちょっと一緒に来て」
  涼子はそう言って、ミチルちゃんの手を引くと、保健室へと向かった。

 保健室に入り、保険医の三枝真美に訳を説明すると、三枝はすぐに保健室の鍵を閉め、カーテンを締め切ってから、ミチルちゃんに声をかけた。
「見るだけだからね。痛い事しないから、ちょっとお洋服の下を見せてね」
  そう言って、ミチルちゃんのカーディガンやトレーナーを脱がせると、そこには生々しい傷跡が、体中に走っていた。
「こ、これは…」
  涼子は、あまりのひどい傷に絶句してしまった。
「誰にやられたの?」
  三枝保険医が聞くが、ミチルちゃんは首を左右に振るばかりだった。
「と、とにかくご両親に連絡しないと…」
  そう言って涼子が立ち上がろうとした瞬間、三枝保険医が鋭くさえぎった。
「それは駄目!」
「ど、どうして…」
「この子を虐待してるのは、親ね。間違いなく」
「どうして、そんな事が分かるの?」
「だって、先生に言いつけられないようにしてあるもの」

 三枝保険医ミチルちゃんの唇をそっと持ち上げた。
  よく見ると、ミチルちゃんの歯は上下が瞬間接着剤で癒着させられていた

 

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