エレベーター

 

 チン!

  エレベーターが来た。
  由里は目をつぶって、一気に暗い廊下を走りエレベーターの中に飛び込んだ。

午後10時。
  この時間まで残業をしていると、経費節減のためフロアの電気はすべて消されている。

 由里は極度の暗闇恐怖症だった。
  とにかく、暗所が怖く、寝る時ですら、明々と電気を点けたまま寝るほどだった。
  あと、エレベーター前の全身が映る大きな鏡も、恐怖を増大させる原因だ。
  暗闇の中、鏡を見ると何かおかしなモノを見てしまいそうで怖いのだ。

 目を閉じたまま、〔1F〕のボタンを押し、〔閉〕のボタンを押す。 
  扉が完全に閉じられ、暗闇が追い出されたと感じて、ようやく由里は目を開けた。

 もう安心。
  1階はいつも電気が点いていて明るい。
  外はすぐに地下鉄の入り口があり、そこへ飛び込んでしまえば、もう暗闇とはオサラバ

 由里は扉の上の階数表示を見た。
  この時間に残っている者は、そういないのだろう。エレベーターは順調に降りていく。

 8階……7階……6階……5階……

 そう言えば、あの通り魔って捕まったのかな。
  由里はふとテレビで流れていたニュースを思い出した。
  この辺りに、包丁で切りつけてくる通り魔が現れるとの事だった。

 4階……3階……2階…… 1階。

 階数表示が1階を示し、チン! と音を立ててエレベーターが止まった。

 扉が開く。

 黒づくめの男が立っていた。
  フードを下ろしているため、顔は見えない。が、その手には包丁が握られていた。
  その包丁がゆっくりと持ち上げられる。

 通り魔!!

 由里はすぐにエレベーターの〔閉〕ボタンを連打した。

 包丁が男の頭上に来た。

 早く!早く閉まってよ!
  由里〔閉〕ボタンを連打したまま、男に目をやる。

 男は頭の上で包丁を持ち替えた。 
  切るんじゃない、突き刺す気だ!

 早く!早く! 
  焦らすように、ゆっくりとエレベーターの扉が閉まっていく。

 男がゆっくりと一歩こちらへ近づいて来る。

 扉はあと5センチほど開いている。
  4センチ・・・3センチ・・2センチ・・・1センチ
  そして、扉は完全に閉じられた。

 すぐに、元いたフロアの〔8階〕のボタンを連打する。

 ゆっくりと、エレベーターが動き出し、階数表示が1階から2階へと変わった。

 た、たすかった・・・・
  すぐに携帯電話を取り出し、警察に……

 指が止まった。

 このビルの造りは、各フロアとも同じ。
  つまり、エレベーターの前には鏡がある。

 由里は、ゆっくりと、ゆっくりと、振り返った。

 その眉間に包丁が突き立った。

 

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