隣の部屋には誰も住んでいない。
なのに、電話の音がする。
マンションの川崎家にそんな怪奇現象が起こっていた。
一度、管理人の老人に鍵を開けて見せてもらったのだが、やはりそこには電話どころから、家具は一つもなく、床にはうっすらとホコリが溜まり、誰も入った者など居ない事がわかった。
それでも電話の音はする。
それは、総一郎が帰宅する少し前午後五時に10分ほど。
それから、深夜というよりも早朝午前四時頃に10分ほど。
二回とも10分ほど延々と鳴り続け、誰も取る気配もなく、不意に途切れるのだった。
総一郎の妻純子が、壁に耳を押し当てて聞いてみたが、間違いなく隣の部屋からだと言う。
だが、もちろん隣に人の気配はない。
管理人に聞いてみるが、2年前に女が一人で借りていたっきり、それ以来誰も借りていないとの事だった。
その女も水商売の女だったらしく、ほとんど部屋には戻って来ず、たまに明け方戻ってくると、そのままカーテンを閉め切って眠っているようで、そのまま夕方になると出勤して行ったという。
「気にするな」
総一郎はそうは言うものの、専業主婦である純子は一人で午後五時の電話のベルを聴かなくてはならず、ひどく怖がっている。
「よし、明日は有給をとって、張り込んでやる」
総一郎はそう言って、管理人と明日の段取りの相談をした。
翌早朝
4時ごろやはり電話のベルが鳴る。
「大丈夫、今日こそ正体を突き止めてやるから」
怖がる純子を抱きしめながら、総一郎は壁の向こうを見つめた。
午後4時半。
管理人と共に隣の空き室へ入り、軽く床を拭いてから二人で真ん中に座る。
純子は朝から、嫌な予感がすると言ってベッドから起き上がれないでいた。
午後5時。
電話のベルがなった。
管理人と総一郎は、耳を澄ませてベルの鳴っている場所を探す。
床よりは高い…
天井ではない…
壁だ…。
どこかの壁から聞こえる。
耳を澄ませ、静かに電話のベルを追いかける管理人と総一郎は、同じ地点で足を止めた。
そこは総一郎たち川崎家との間の壁。そこから電話のベルがするのだ。
総一郎は管理人の許可を得て、金槌を持ってきて壁に叩きつけた!
ズボッという妙な手応えで、金槌が壁に埋まる。
壁紙一枚下は、緩い漆喰か何かで適当に塗り込んだ壁のようだった。
さらに金槌を叩きつけると、ボロボロと壁が剥がれていき、それに比例して電話のベルは大きくなる。
10回も叩きつけると、壁にはすっかり大穴が空いた。
そこには、電話が一台、けたたましくベルを鳴らし続けていた。
そしてその横には、布で何かを包んだようなモノが一つ。
同時だった。
管理人が手を伸ばし、その布の包みをほどき。
総一郎が電話の受話器を取った。
受話器からは、この世の者とは思えない断末魔のような悲鳴が聞こえてきた。
そして、布切れからはミイラ化した赤ん坊の死体が出てきた。
警察が到着し、ミイラを受け取り、電話会社から壁の電話の着信履歴を調べたところ、仙台からの電話だった。
警官二人がその電話の主の部屋を調べに行くと、水商売風の女性が受話器を手にしたまま、心臓麻痺で死んでいた
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