隆一は天ぷらを食べ終わると、箸を置いた。
「もういいだろ?」
台所から加奈子の声が聞こえる。
「待って」
「いくら待っても、もう俺たちの仲は終わりだから」
「お願い、待って!」
台所から加奈子が走ってきた。
「二人の思い出を見て欲しいの。それで…それで…もし、改心してくれたら…」
「俺はお前との仲を考え直す事はない」
「じゃあ、思い出のアルバムだけでも!」
加奈子は、クローゼットの引き出しからアルバムを出してきた。
隆一はため息を一つ吐いてから、渋々とアルバムを開いた。
隆一と加奈子の出会ったばかりの写真が並んでいる。
次のページをめくると、
隆一と加奈子のデートの時の写真が。
次のページをめくると。
初めての夜の写真が。
そう言えば、加奈子はいつでもカメラを持っていた。
次のページをめくると。
デートの写真が次々と出てきた。
次のページも。次のページも。
そして、突然、無数のゴキブリの写真が出てきた。
「うわ!」
隆一はアルバムを閉じようとした。その手を、加奈子が止める。
「次。次をめくって」
隆一は、「このアルバムさえ終われば、この女と別れられる」という思いで、次のページをめくった。
皿の上で潰されるゴキブリの群。
「次、次」
次のページをめくる。
ドロドロになったゴキブリのペースト。
次のページをめくる。
ゴキブリのペーストに混ぜられるニンジンとタマネギ。
最後のページ。
そこには、ゴキブリのペーストで作れられた天ぷらが揚げられていた。
隆一は激しく嘔吐した。
その横で、加奈子が爆笑していた。